共通の敵をつくる
ブランドが共通の敵を作ることで、顧客の忠誠心を強めるという戦略は非常に効果的です。敵となるのは、広告の攻撃対象や顧客の嫌悪の的となるライバルブランドです。例えば、アップルがその典型です。アップルは家庭用コンピュータの製造から始まり、多くの顧客を熱狂的な支持者に変えました。アップルのファンは、しばしば他のブランドを「敵」とみなすことで、ブランドへの一体感を強めています。
スティーブ・ジョブズのようなカリスマ的なリーダーがブランドの成功に貢献したことは間違いありませんが、それが忠誠心を築くための必須条件ではありません。アップルが成功した背景には、ライバルブランドを共通の敵として位置づけることで、顧客に強い結束感を生み出した点があります。これにより、顧客は単なる製品の購入者から、ブランドを熱心に支持する「信者」へと変わっていくのです。
敵対心や競争を利用することで、顧客がブランドへの一体感を持ちやすくなり、他の選択肢に目を向けにくくなるという心理が働きます。この戦略は、アップルの成功を通じて広く知られるようになり、多くの企業にとっても参考になる手法です。
集団への帰属意識を利用する
ヘンリ・タジフェルの実験は、集団への帰属意識がどれほど簡単に形成され、他の集団に対する差別的な態度が生じるかを示すもので、「社会的アイデンティティ理論」の基礎を築きました。この理論によれば、人は自然と自分を特定の集団に分類し、その集団とのアイデンティティを共有します。その結果、他の集団との差別化を図り、自己の集団に対する忠誠心が強化されるのです。
タジフェルの実験では、被験者は実質的に意味のない分類に基づいてグループ分けされましたが、それでも自分が属するグループを優遇し、他のグループを不利に扱うようになりました。この現象は、わずかな違いでも強い集団意識を引き起こし得ることを示しています。
このような集団への帰属意識の利用は、ビジネスやマーケティングでも活用されることがあります。企業やブランドは、顧客に対して「自分はこのブランドの一員である」という意識を持たせることで、強力なファンベースを形成し、競合他社との差別化を図ります。この帰属意識が強いほど、顧客はそのブランドに対する忠誠心を高め、他の選択肢を軽視する傾向が強まります。
私たちvs彼らというアプローチ
「私たち vs 彼ら」というアプローチは、ニューロマーケティングやブランド戦略でしばしば活用される手法で、人々の集団への帰属意識を利用して、特定のブランドへのロイヤルティを高める仕組みです。このアプローチは、顧客に対して「自分たちはこのブランドの一員だ」というアイデンティティを強化し、他のブランドや競合製品を「彼ら」として排除する傾向を促します。
アップルの事例はこのアプローチの典型的な例です。アップルは長年にわたり、自社の製品を使う「私たち」と、他の製品を使う「彼ら」との対立を描くことで、消費者の間に強いブランド帰属意識を醸成してきました。たとえば、1984年の有名な「1984」CMでは、抑圧された集団(「彼ら」)に対して、自由で反抗的な個(「私たち」)を象徴する女性が描かれ、アップルのイメージを革新的かつ独立した存在として確立しました。
さらに、「レミングス」CMでは、ウィンドウズユーザーを思考を持たずに従う集団として描き、彼らが無自覚に崖から飛び降りる姿を風刺的に表現しました。これは、アップルユーザーを「個性を持ち、自律的な選択をする人々」と位置づける一方で、競合ユーザーを「盲目的に従う集団」として対比しています。
こうした「私たち vs 彼ら」の対立構造は、ブランドが顧客に独自の帰属意識を与え、そのブランドを選ぶことで他者との差別化を図る心理を活用するものです。近年の「マック vs パソコン」CMシリーズでも、アップルは同様に「クールな仲間に入りたいか、ダサいグループに残りたいか」という明確な対比を提示し、顧客に「私たち」の側に立つことを促しています。
このアプローチの成功は、集団心理に基づくものであり、顧客が自分たちのアイデンティティの一部をブランドと結びつけ、競合を「他者」として扱うことで、強力なロイヤルティが形成されることを示しています。
商品ではなく、人を対比させる
アップルのコマーシャルにおける特徴的なアプローチは、商品そのものではなく、商品を使う「人」に焦点を当てる点です。これにより、製品の具体的な性能や特徴に言及することなく、ユーザーに対する感情的な共感や帰属意識を高めることができます。アップルはウィンドウズユーザーを皮肉る一方で、アップルユーザーを魅力的で洗練された存在として描き、購買者に「アップルを選ぶことが自分を優れた集団の一員にする」というメッセージを伝えています。
同様のアプローチは、他のブランドにも見られます。たとえば、コカ・コーラとペプシの競争においても、コーク派とペプシ派という「集団対立」がブランド戦略に利用されています。特に「ペプシジェネレーション」キャンペーンでは、ペプシを飲む人々を若くて魅力的な集団として位置づけることを目指しました。しかし最終的には、コカ・コーラがその地位を保ち続け、ブランドに対する感情的な帰属意識が市場に大きな影響を与えたと言えます。
この「私たち vs 彼ら」のアプローチは、自動車業界にも見られます。特にシボレーとフォードのトラックオーナー間の対立は、この集団的な帰属意識を示す代表的な例です。メーカー側は積極的にこの手法を使っていない場合でも、顧客は自らを一つのグループに属する存在として認識し、他方を「彼ら」として差別化しています。
このように、人々のアイデンティティと帰属意識を利用することで、ブランドは顧客の感情的なつながりを深め、競合他社との明確な違いを作り出しています。
対立軸をつくる
「私たち vs 彼ら」という対立軸を構築する戦略は、視覚的に認識されやすい商品(車、衣料品、たばこなど)で特に効果的ですが、ブランドが人々に愛着を持たれている場合にはどんな商品にも応用可能です。この戦略では、顧客に「自分は他者とは違う」と感じさせることが重要であり、単なる広告のキャッチフレーズではなく、より信頼性のある方法で顧客とのつながりを深める必要があります。
たとえば、エッツィ(Etsy)はハンドメイドやアート作品のオンラインマーケットとして成功を収めています。エッツィはアップルのような大手ブランドと異なるように見えますが、その創設者ロブ・カリンは、スティーブ・ジョブズのアプローチを模範にしてきました。カリンにとって重要なのは、エッツィで作品を販売する何千人ものアーティストたちであり、彼は自らを大企業の一部ではなく、アーティストたちの味方として位置づけました。これにより、アーティストたちとの共感を築き、「私たち」(エッツィとアーティスト)対「彼ら」(大企業や官僚的な存在)という対立を形成したのです。
興味深いことに、エッツィ自体が大企業へと成長しつつあるにもかかわらず、カリンは自分を「CEO」ではなく「クラフター・イン・チーフ(手工芸愛好家のリーダー)」と名乗り、エッツィとアーティストたちが一致団結して大企業に立ち向かう姿勢を強調しています。このような対立構造は、顧客にとって強力な感情的なつながりを生み出し、ブランドの成功につながる要素となります。
パーミッション・マーケティング
セス・ゴーディンは、現代のマーケティングにおいて「パーミッション・マーケティング」(Permission Marketing)という概念を提唱しています。彼のアプローチは、従来のトップダウン型のブランドマネジメントとは大きく異なります。
パーミッション・マーケティングの概念
- 内向きから外向きへの変化 伝統的なブランド・マネジメントは、企業が内部から外部へ向けてメッセージを発信するトップダウンのアプローチが中心でした。ここでは、企業の意図や政治的な決定、資金力がブランドの方向性を決定していました。
- トライブ(部族)マネジメントの重要性 ゴーディンの考えでは、顧客との関係を築くためには、企業が顧客の「許可」を得る必要があります。顧客が自らの意志で受け取ることを許可したメッセージのみが、効果的なマーケティングになるというわけです。顧客が自発的に参加するコミュニティや「トライブ」を作り、そのトライブが共有する価値やストーリーを重視します。
- 仲間とのつながり ゴーディンによれば、人々が真に求めているのは企業とのつながりではなく、仲間とのつながりです。企業は顧客の許可を得た上で、顧客同士がつながり、意見を交換し合えるようなコミュニティを形成することが求められます。
- ストーリーの力 企業は顧客が共感できるストーリーを提供し、顧客が自身の体験や意見を語り合える場を提供することで、より強固なつながりを築くべきです。これにより、顧客はブランドに対する忠誠心を高め、自発的にブランドの支持者となるのです。
- トライブの価値 ゴーディンは、「トライブ」を形成すること自体が重要であり、企業の役割はそのトライブをより良いものにしていくことだと考えています。トライブは既に存在するものであり、企業はそのトライブに価値を追加し、支援する立場にあるべきだというわけです。
このアプローチにより、企業は顧客との関係を深め、より自然で持続的なブランド支持を得ることができます。パーミッション・マーケティングは、顧客との信頼関係を築くための重要な方法といえるでしょう。
顧客にグループの一員のようだと思わせる
顧客に対して「グループの一員である」という感覚を提供し、他の競合と差別化するためには、以下のステップを考慮することが重要です。
1. ブランドにおけるトライブの形成
- 共通の価値観と目標: 顧客が共感できる価値観や目標を設定し、それをブランドの中心に据えます。これにより、顧客はブランドを単なる商品やサービスの提供者ではなく、自分の価値観を共有する「仲間」と見なすようになります。
- コミュニティの構築: 顧客が参加できるオンラインフォーラム、ソーシャルメディアグループ、イベントなどを提供し、顧客同士の交流の場を作ります。これにより、顧客はブランドとのつながりを深め、トライブの一員としての自覚を持つようになります。
2. 顧客に「私たち」の感覚を提供する
- ブランドのストーリーを共有: ブランドの背景や使命、ビジョンを顧客に伝え、そのストーリーに共感してもらうことが重要です。顧客がブランドの一部と感じることができるように、ストーリーを共有し、参加する機会を提供します。
- 成功事例やストーリーの共有: 他の顧客がブランドとの関わりで得た成功や体験を共有することで、顧客のコミュニティへの帰属意識を高めます。
3. 敵集団の定義と競争の促進
- 明確な対立軸の設定: 競合他社や代替品との違いを明確にし、顧客に対して「私たち」と「彼ら」の違いを意識させます。これはブランドのメッセージやキャンペーンを通じて、競合との違いを強調する方法で行えます。
- 競争心を刺激する: 顧客が自分の選択が「正しい」ものであり、他の選択肢よりも優れていると感じられるようにします。例えば、限定商品や特別なイベントなどを通じて、ブランドへの忠誠心を強化する方法があります。
4. ブランド支持者と伝道者の育成
- インセンティブの提供: 顧客がブランドを友人や家族に推薦したり、レビューを書いたりすることで得られる特典や報酬を提供します。これにより、顧客がブランドの伝道者となる動機を与えます。
- 顧客の成功を祝う: 顧客が達成した成果や特筆すべき活動を公式に認め、祝うことも効果的です。これにより、顧客はブランドの一部であることを誇りに思い、他の人にもその経験を伝えたくなります。
これらのアプローチを組み合わせることで、顧客に対して強い帰属意識を提供し、競争を煽ることでより忠実な顧客を育成することが可能です。ブランドに対する感情的な結びつきが深まることで、顧客は自然とブランドの支持者や伝道者となり、長期的な関係を築くことができます。
さりげないヒントが役に立つ
さりげなくターゲット層の違いを意識させることで、顧客の帰属意識を高め、ブランドへの信頼を強化するための具体的な方法は以下の通りです。
1. ターゲット層の違いを自然に示す
- デザインとメッセージング: 商品や広告のデザインやメッセージに、ターゲット層が特に共感しやすい要素を組み込みます。例えば、若年層向けの商品であれば、トレンドやポップカルチャーを取り入れることで、その層が「自分たちのもの」と感じるようにします。
- ブランドのストーリー: ブランドの背景やビジョンを伝える際に、ターゲット層が共感しやすいエピソードや価値観を強調します。例えば、エコロジー意識が高い若年層をターゲットにするなら、環境保護に対する取り組みを前面に押し出します。
2. ターゲット層へのヒントを提供
- 限定コンテンツやイベント: 特定のターゲット層に向けた限定のコンテンツやイベントを提供し、その層だけがアクセスできる特別感を演出します。これにより、ターゲット層が「自分たちだけの特別なもの」と感じ、競合他社との違いを意識します。
- カスタマイズされたメッセージ: マーケティングメッセージや広告にターゲット層が共感しやすい言葉やアイコンを使います。たとえば、特定の年齢層や趣味に関連した用語やビジュアルを用いることで、その層の意識を自然に引き寄せます。
3. さりげない差別化
- ユーザー体験の差別化: 商品やサービスのユーザー体験をカスタマイズし、ターゲット層に特有の価値を提供します。たとえば、プレミアム感を出すために、特定のターゲット層向けにパーソナライズされたサービスや製品を提供します。
- ブランドコミュニティの強化: ソーシャルメディアやフォーラムでターゲット層向けの専用グループを作り、そこに参加することで得られる特典や情報を提供します。これにより、ターゲット層がブランドの「一員」としての意識を高めます。
4. 信頼性の強化
- 第三者の証言やレビュー: ターゲット層にとって信頼できる第三者やインフルエンサーからのレビューや証言を活用します。これにより、顧客がメッセージの信頼性を感じやすくなります。
- データと実績の提示: 商品やサービスの実績やデータを提供し、ターゲット層に対して具体的な証拠を示します。たとえば、顧客満足度の高いレビューや成功事例を紹介することで、信頼性を高めます。
5. 違いを意識させる
- 視覚的な区別: ブランドのビジュアルアイデンティティをターゲット層に合わせて調整し、競合他社との違いを明確にします。たとえば、特定の色合いやデザインパターンを用いることで、視覚的にターゲット層が自分たちを認識できるようにします。
- メッセージの一貫性: ブランドのメッセージを一貫させることで、ターゲット層がブランドの価値や特性を自然に受け入れるようにします。たとえば、ブランドの理念や価値を常に強調し、顧客がそれに共感できるようにします。
これらの方法を用いて、顧客に対して「私たち」と「彼ら」の違いをさりげなく示すことで、ターゲット層の帰属意識を高め、ブランドへの忠誠心を育てることができます。
