エレベーターに乗ったとき、目のやり場に困ったことはありませんか?
エレベーターでは個人の空間が侵害される
人は誰でも、自分の周りに「パーソナル・スペース」と呼ばれる個人的な空間を持っています。このパーソナル・スペースには、自分と他人との関係性によって4つのゾーンがあり、その中でも特に近い「親密ゾーン」は、家族や親しい友人などしか入れない約50cm以内の距離です。
しかし、エレベーターや混雑した電車、バスなどでは、見知らぬ人がこの親密ゾーンに入らざるを得ない状況がよくあります。こうした場面では、自分のパーソナル・スペースが侵害され、不快感を覚えることもありますが、他の人に「どいてほしい」と言うわけにもいきません。
ここで働くのが「親密性の平衡モデル」と呼ばれる心理的なメカニズムです。人は、物理的な距離が取れないとき、代わりに「心理的な距離」を取ろうとします。例えば、エレベーターの階数表示をじっと見つめたり、車内広告に集中したり、わざと眠っているふりをすることなどが典型的な行動です。こうすることで、他人の存在を無視し、自分の中で安心できる距離感を保とうとしています。
このように、心理的な工夫を通じて一時的に不快感をやり過ごし、自分の「テリトリー」を守っているのです。
人は光るものに目が行きやすい
混雑したエレベーター内で階数表示をじっと見つめる行動には、「正しい距離感を心理的に保とうとする」という理由だけでなく、別の心理的な理由もあります。
人は新しい刺激がないとすぐに飽きてしまう性質があり、これを「心的飽和」と言います。このため、退屈な状態になると自然に目新しいものを探そうとし、特に「光るもの」や「小さいもの」に目が向きやすくなります。エレベーターの階数表示は小さく、光っていることが多いため、無意識に視線が集中しやすいのです。
この「光るものや小さいもの」に目が行くのは、「図と地の法則」という心理的な原理によります。「図」とは、意味のある形や姿、つまり注目すべきメインの部分を指し、「地」は背景や余白の部分です。人は通常、図の部分に注目しますが、図と地を切り替えることで別のものが見えてくる場合があります。だまし絵がその代表例で、見方を変えると異なる絵が浮かび上がるのも、この図と地の法則の効果です。
エレベーターの階数表示も、周りの空間(地)の中で際立った小さな光(図)として意識されやすいため、自然と視線が集まりやすくなっているのです。
「図」と「地」は同時には見られない一だまし絵
r図」と遥」が同じくらい目につくと、入れ替わって見えてしまいます。両方を同時に見ることはできず、また、両方に気づくと、片方だけをずっと見続けることもできません。

ルビンの盃
デンマークの心理学者ルピン作。中央の明るい部分に着目すると盃が見え、左右の暗い部分に莉目すると向き合った2人の横顔が見える。
ウサギとカモ
左を向いた力での横顔が兒える。カモのくちばしの部分を耳にとらえると、右を向いたウサギの横顔にも見える。アメリカの心理学召ジャストロー作

パーソナルスヘース
最も近いのが親密ゾーンで、身の周り約50Cmぐらいの範囲。その次が友人などの対人的ゾーン、上司や同僚などの社会的ゾーン。最も距離が遠いのは公衆ゾーン
上図のようなだまし絵を「図他反転図形」といい。ほかに「婦人の老婆」なども有名。オランダの画家エッシャーも数多くの作品を残しており、制作過程では綿密が計算がされたという。
